合氣道の基本動作(体捌き)のうち体の変更を吟味する
はじめに:開祖は合気道を創始され、その思想と術技を後生に与えられた。それに加えて多数の言葉を遺してくださった(合気道開祖・植芝盛平語録『合気神髄』)。それぞれの語句が意味する思いと動作が、合気道の根本である体捌きに現われてこそはじめて合気が確立して武技が産まれる、ということは言うに及ばない。
結論:入り身転換・体の変更あるいは後ろ半回転による体の変更において、はじめ体軸に与る陰の魂氣の役割は大きい。
以下、考察:
体の変更、鳥船(魄氣の陰陽)、入り身一足
合気道の言葉と思いと動作の三位一体から、体軸は魄氣の軸足と、腰仙部もしくは下丹田に結ぶ魂氣の陰によって確立する。また、体の変更とは軸足の交代を経て、再度元の軸足へ戻って半身の左右も元に戻り、体の向きが180度転換することを言う。ここで、半身とは陰の魄氣に限る。鳥船の呼気で魂氣を包む掌がイェイと下丹田に結んだ姿勢である。
ちなみに、半身の姿を現す魄氣の働きは、他に入身一足と、陽の魄氣の瞬間がある。前者は入り身の継ぎ足で二本の足が一本の直立した軸足となる瞬間である。後者は、魄気の陰の半身から入り身で体軸が移動して確立する間の、視認することのない足腰の形である。しかし、鳥船では吸気の終末に見られ、体軸が前に揺れては戻る瞬間の体勢である。
入り身転換、魂氣の陰陽
入り身転換は軸足交代が一回で半身を交代して、体の向きが180度転換する動作を言う。体の変更はそこから非軸足を一歩大きく後ろに置き換えて再度軸足交代を行なう。半身は左右が元に戻る。
はじめの軸足交代は、陰の魂氣を腰仙部から陽で差し出して同側の足先を同時に外股へ転回させ、非軸足側への先導を行なう。加えて、すでに後方寄りへと転換している目付けと上体を陽の魂氣が緻密に剣線上へ向かわせることで対側の軸足確立に大きな役割を果たす。
入り身転換で止まらず、さらに非軸足を後方へ一歩置き換えて再度軸とする体の変更の動作を、同側の陽の陽の魂氣が即座に陰に巡って腰を回り、先導する形で腰仙部に結び、移動した体軸に与るのである。
後ろ回転
一方、後ろ半回転を体の変更とする動作は、はじめの軸足交代が入り身をせず、その場で軸足交代と陰の魂氣の結びにより体軸を確立する。後方の弛緩屈曲した足が一気に非軸足となるため、地から跳ね上げられて対側の軸足の脹脛から踵に沿って着地し、すぐさま再度軸足・体軸へと交代する。
この後ろ半回転でも、はじめ体軸側の陰の魂氣は同側の軸足が非軸足側になって跳ね上げられ、一歩後ろに置き換わる瞬間、腰仙部から腰の回りに沿って体軸から解かれた陰の魂氣として下丹田へと巡るわけだ。この巡りの要訣は相対的・受動的ではなく母指先から存分に魂氣を発して、しかし腋は閉じたまま腸腰部を鼠蹊下部へと魂氣は小手返しの手のまま周回して前方に至る。はじめと同じ半身で左右の手が対称的に前方を向き、体を三面に開く姿勢へと変更する。ちなみに、体を三面に開いてから、その場で入り身転換すれば、下段に与えて後ろ一回転を動作したことになる。
体軸と魂氣の陰陽(両手の協働)
すなわち体の変更では、いずれもはじめ陰の魂氣で体軸に与った手が、体軸から解かれた魂氣として陰陽の違いは在っても、足腰目付けの転換・回転には自在に体幹の周りを巡って先導するという重要な働きを担うのである。〝空の気を解脱して真空の氣に結ぶ〟〝魂の比礼振りが起こる〟に同義であるに違いない。
〝気の置きどころを知る〟、休むことと働くこと、静止と動作というめりはりのきいた役割を認識することが肝要である。
それに反して陽でも陰でもない、役割のない手や足が一つでもあれば、とりわけ徒手の場合、その瞬間に合氣は成り立たない。〝武産合氣〟という概念は基本動作の段階で充分吟味しなければならない。
2021/3/18