正面打ちと合気道開祖植芝盛平の正勝吾勝勝速日・武産合気
いわゆる「飛び込み面」では、剣先で相手のそれを払うやいなや真中を取って前の右膝を引き揚げると同時に振りかぶり、左の軸足はその場で地を蹴って足腰が伸展する。即右の足先を前に送って膝が伸展すると同時に剣先が相手の額部を打つことになる。左足は右踵の後ろに継がれ、一瞬一本の軸となって体軸が移動する。入り身一足である。即左に軸が移り右はその場で非軸足となり、半身の残心の姿が生まれる。
ところで、初めから右足で地を踏み、左は足先のみを地に着ける構えから正面打ちを試みると、右足で立ち幅跳びをするような動作となり、一足一刀と言えるほど間合いを詰めることができない。つまり、構えの段階で左足踵がすでに地を離れており、はじめから踏み詰めてほぼ軸足となった右足で前に飛ぶことは困難であろう。右膝をさらに屈曲して前に倒れかかり、左足先も地を離れ、前に置き換わった右足底が地を踏み直して左足が継がれると右足のすぐ後ろで地を踏む。この繰り返しで間を詰めて相手を圧倒していく。残心の段階はこれに相当する。
しかし、〝踏み詰める足は待ちの足〟(宮本武蔵)と言われる。飛び込んで間合いを詰めて有効な面打ちを行うには、左膝を発条にして左足底が体重を支える軸、つまり体軸を作ること(吾勝)が第一である。それにより右足が地から完全に離れて前方に蹴り出し、剣を前方に打ち放つ(正勝)と同時に左足底が地を突っ張って左足が伸展すると、着地した右足は地を踏み詰めて下腿が直立し、左足は完全に地から離れて右踵の後ろに継ぎ足で引き寄せられる。右足は左足とともに一本の直立した体軸となって剣は相手の面を撃ち据え、有効な力がその五体に響く(勝速日)であろう(『合気神髄』p70)。
左を軸足として体軸が確立すれば右足を自由に伸展しただけ相手との間合いを詰めることができる。これこそ飛び込んで間を詰めて効果的に面を打つということである。それに比べて、右足を常に軸足としながら体軸が倒れんばかりに前傾して剣先が相手の面に届いても、飛び込んではいない。
地に直立した体軸を土台として(吾勝)、打ち放つ正面打ち(正勝)こそ有効であるはずだ。
〝二つはこんで一と足すすめ〟(宮本武蔵)、二足が一つになって体軸を確立する瞬間にこそ技が生まれる(勝速日)のであり、残心と同義であると言えよう。
ある剣道のオンライン動画によると「左に荷重を置いて、一足一刀の間合いから大きく打つ」という。まさしく飛び込んで面に打ちこむ剣技が研鑽されているようだ。
禊から合気の技が生まれるという思い。正勝吾勝勝速日、入り身一足の動作。これらは開祖のいわゆる、武産合気の思いと動作である(『合気神髄』p65)。
2023/4/19
水曜稽古の記録